2020/06/18
看護学領域の質的研究における一般的な分析素材である対象者へのインタビュー。
逐語録を元にコード化・カテゴリ化にあたって重要になるのは、帰納法の存在です。
帰納法を精緻にお伝えしようとすると哲学の領域に入ってくるため、ここではその説明は得策ではないため触れないでおくとして。
端的な解説は下記の科学技術振興機構のページが分かりやすいので、ご一読いただきたいと思います。
帰納的論証の使われ方
https://jrecin.jst.go.jp/seek/html/e-learning/900/lesson/lesson3-3.html
改めて申し上げると、帰納法とは、複数の根拠によって規則性が発出され、それにより主張を導き出すことを言います。
科学技術振興機構のページの例6で言えば、
トラは7つの頸椎を持つ。
ヒトは7つの頸椎を持つ。
これら3つの内容は、
の根拠となるものです。
「違いない」というのがポイントで、キリン、トラ、ヒトが7つの頸椎を持っているからと言って、すべての哺乳類は7つの頸椎を持つかどうかは、もっと突っ込んで調べないと断定できません。それゆえ、根拠によって導き出されるのは唯一正しい結果ではなく、主張であり仮説です。
同じように、看護学領域で例を挙げると、
新人看護師Bは入職後すぐにICUに配属されたくないと思っている。(根拠)
新人看護師Cは入職後すぐにICUに配属されたくないと思っている。(根拠)
だから、すべての新人看護師は入職後すぐにICUに配属されたくないと思っているはずである。(主張)
新人看護師3人が、入職後すぐにICUに配属されたくないと思っているので、すべての新人看護師は入職後すぐにICUに配属されたくないと思っているはずだという仮説が成り立ちます。
これは、コード化・カテゴリ化にも大いに影響するところです。
上記の帰納法に当てはめると、コードは根拠、カテゴリは主張になります。
インタビュー内容から上記の動物の例のようなきれいな根拠が出てくるわけではなく、綺麗にカテゴリとして束ねることができづらい部分があります。
難しいかもしれませんが、それをうまくコード化する(根拠づける)、カテゴリ化する(仮説を導き出す)ことが大切です。
また、帰納法の特性から、コード化とカテゴリ化、とくにカテゴリ化にはバイアスがかかります。
上記の新人看護師の例で言えば、インタビューの発言から、本当に入職後すぐにICUに配属されたくないと思っているのかどうか、たしかにそう言っているにしても、聞き手(インタビューア)から誘導されるように言っているのと自ら進んで言っているのとでは意味の強さがかなり異なります。ほかにも、たしかに文言としてはそう言っているけど、発言を聞いてみれば極めて弱い言い方である場合など、同じ「入職後すぐにICUに配属されたくないと思っている」にも程度(ニュアンス)の差があるわけです。
これらはそのインタビュー音声を聞く人によって、その程度(ニュアンス)の取り方に違いが出てきます。
カテゴリ化においては、コード化よりも抽象度がグッと上がります。
新人看護師Bは入職後すぐにICUに配属されたくないと思っている。(根拠)
新人看護師Cは入職後すぐにICUに配属されたくないと思っている。(根拠)
に対する主張(仮説)は、
かもしれませんし、
かもしれませんし、はたまた、
かもしれません。
主張の仕方(仮説の立て方)にもさまざまあって、どういった主張(仮説)でありたいかという論文の著者のバイアスがかかります。
ただ、実際問題、バイアスがまったくかからないようにすることはできませんし、質的研究の素材としてのインタビューは、事前に主張(仮説)を立てた上で、つまり、導き出したい答えを設定した上でインタビューに臨むことがほとんどであり、その意味で、あまりにも意図した操作は良くないにしても、バイアス自体は許容されて然るべきではないかと考えます。
バイアスがかかるというのは、すなわち、創造性があるということで、バッチリ一つの正しい答えを出す演繹法と比して、万能ではないにせよ、さまざまな可能性(主張、仮説)を秘めているのが帰納法と捉えることもできます。
こういったことを加味しながら、当社では、逐語録の作成からコード化・カテゴリ化まで一貫したサービスをご提供しています。
逐語録の作成、コード化・カテゴリ化
https://www.osaka-p.com/tape/interview.html